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遼州戦記 保安隊日乗 殺戮機械が思い出に浸るとき 68

「そちらの部下の方々は……私の艦が気に入らないようだ……残念ですね」 

遼州派遣フランス宇宙軍艦隊司令カルビン提督は引きつった笑いを浮かべながらモニターの中で浮かない表情の北川達を眺めていた。そしてそのまま視線を不可思議な雰囲気をまとった美しい女性の方へと向けた。

一見アジア系に見えるが、遼州人も多くは同じように見えるのでカルビンには彼女が何者かは分からない。細い切れ長の目と長い輝いて見える黒髪。年の頃は25くらいに見えるが女性は化けるのを知っているので特に気にすることもなくただ黙ってそのまま彼女の前のソファーに腰を下ろした。

軍事交流の一環で訪れた東和宇宙軍の新港。近くにはカルビンの興味を引きつけて止まない保安隊の運用艦『高雄』の姿もあるという。ただ雑務にかまけて結局ここで停泊していられるのも後数時間。後悔をしているのは事実だが、任務を常に優先する彼の人柄が彼を分遣艦隊司令の地位まで引きずりあげてきたのも事実だった。

女性は静かにコーヒーを啜っている。カルビンはコーヒーの味にはうるさい。豆はエチオピアの放射能汚染地域以外から取り寄せ、焙煎は暇を見繕っては自分で行い、そして毎日必要な分だけ自分で挽く。コーヒーを味わうことを中心に自分の人生は回っている。そう思うと少しばかり不思議な気持ちだがそれが事実だったのだから仕方がない。もう退官も近い年になるとそんな悟りに近い境地に達するようになってくるものだ。

「アイツ等が部下……笑わせてくれますねえ……アタシとアイツ等。尤も……そのつながりはまともな軍人さんには分からないものかもしれませんがね」 

妖艶な笑み。そんな言葉がぴったりと来るような笑みを浮かべる女性。彼女の流ちょうなフランス語に今日何度目かの感嘆の表情を浮かべた後、カルビンは静かに彼女が差し出したカードを手に取る。

「ハド陛下からの書簡……確かにお預かりしました。欧州は今のところは平穏だが……遼州系移民も少なくない。今回の遼北と西モスレムの紛争で彼等に妙な動きが無いとも言えませんから……使い手を貸していただけるのは本当に願ってもいないことです」 

静かに丹念にカルビンは答える。彼としても目の前の女性、ギルドの総帥廃帝ハドの使者が先ほどのキャビンの乗客並みに危険な存在なのは十分理解が出来た。

法術師。その存在を欧州でもいち早く知ったカルビンだが、その威力はすでに上層部は十分に理解していることは彼の『近藤事件』で観測された様々なデータに全く関心を示さないことで証明されていた。予期した危機。だが上層部は対策が満足に出来ていない状況でその存在が公になったことに焦りを感じているようだった。

さもなければキャビンの二人がカルビンの艦隊の艦に乗る必要もない。二人とも遼州同盟司法局の追う違法法術発動事件の重要参考人である。もし彼等の存在が同盟加盟国の所属機関に漏れれば国際問題では済まない話になる。

「ああ、アイツ等なら問題ありませんよ……なにしろ太子直々に因果を含めてありますから」 

女性の冷たい笑みにカルビンは背筋に寒いものが走る。カラ。彼女はそう名乗った。名字を尋ねたが『いろいろと事情が……』と軽くはぐらかされた。カルビンも海軍の士官らしく若い頃は浮き名を流したものだが、この手の女性には気をつけろとその頃の勘が自分に告げるので特に深く追及もせずに今に至る。だが彼女の時に悪意を感じる微妙な表情の機微を見る度にただそんな自分の若い頃の判断が正しかったのかと思い悩む瞬間があるのを感じていた。

「法術師には法術師を当てるしかない……それは分かっているのですが……」 

納得がいかないような口ぶりのカルビンをあざ笑うような笑みで見下すカラ。

「お互い上の意志は尊重しましょう。それが組織で生きるコツですよ」 

カラの口元の微かな笑み。そこにサディスティックな彼女の嗜好を想像してカルビンはさらに表情を硬くした。

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