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遼州戦記 保安隊日乗 殺戮機械が思い出に浸るとき 69

「ですが……」 

相手の方が上手と分かっていてもカルビンにはただここで自分がこの命令に不満を持っていることをカラに伝えておくべきだと思っていた。

桐野孫四郎。彼の経歴はカルビンも噂には聞いている。先の大戦でほとんど無謀とも言える遼北反攻を企てた胡州帝国陸軍最後の大反攻作戦『北星計画』。対地球戦争反対派で外務省から謹慎を命じられていた現胡州宰相西園寺義基の遼北を通じての全面講和計画を潰すためだけに陸軍の強硬派が急遽でっち上げた穴だらけの反攻作戦。その結末はあまりにも哀れだった。

作戦準備が内通していた遼南帝国軍から漏れ、胡州陸軍とゲルパルトの派遣部隊は罠に頭から突っ込んでいく形になった。遼北は首都防衛のために温存していた精強部隊の革命防衛隊を惜しげもなく投入し、胡州軍を中心とした枢軸側は緒戦から敗戦に次ぐ敗戦。そしてそれをあざ笑うかのように遼南帝国近衛師団長ガルシア・ゴンザレス将軍が遼南の首都央都でクーデターを起こしてアメリカ軍を引き入れ、胡州軍は南北から挟み撃ちに会うという惨劇に見舞われることになった。

その首脳部。愚かでカルビンも出来れば関わり合いになりたくないうさんくさい連中だが、終戦後、桐野は彼等を一人、また一人と斬殺していった。

『怨』 

その場に残された血染めの文字。確かにそんな恨み言でも言いたくなる気持ちは分かる。だが桐野はそれ以来血塗られた経歴を残していくことになるのは当然だったのかも知れない。

戦後、対外資産を凍結されて経済的に混乱する胡州で彼の暴力はあらゆる場面で必要とされるようになった。闇市で、裏市場で、時には中央官庁の官吏の手引きを受けた形跡まで残して桐野の蛮行はとどまることを知らなかった。

そんな名の知れた人斬り。恨みは山のように買っていることだろう。何度となく死亡説が流れたこともある。だがいつの間にか彼は廃帝ハドと言う庇護者を得てこうして東都で人斬り稼業を続けてきていた。そして今度はそのまま地球に渡るという。

「言いたいことは分かるがねえ……桐野のことだろ? だから因果は含めてあるって言ったじゃないか……分からない御仁だねえ……」 

次第にカラの口調がくだけてくる。相手を呑んだというような妖艶な笑み。見た目の物静かさとは無縁な激動的な人生もあの桐野や北川などと同じくカラも過ごしてきたことだろう。

その時、机の上の端末に着信があった。

「早く出たらどうなのさ」 

見下すようなカラの一言に急かされるようにカルビンは慌てて着信ボタンを押した。引きつった表情を浮かべる情報士官の表情がカルビンの心を乱す。

『ご歓談中申し訳ありません。……提督』

「いや、いい。要件を言い給え」 

カルビンは正直ほっとしていた。これ以上カラのペースに惑わされるのは彼のプライドに関わる。いつもの峻厳な表情に戻った艦隊司令を見て安心したような笑みを浮かべた後、気を引き締め直すと情報将校は重い口を開いた。

『遼北と西モスレムの民間の通信回線が何者かにクラッキングを受けているものようです……原因は目下調査中です。調査が済み次第再度報告させていただきます』
 
「ほう……これは面白いことになりそうだねえ。……いや、あなたたちにはつまらない結果かも知れなけど」
 
再びカルビンは不敵に微笑むカラの口元に目を奪われていた。


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