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遼州戦記 保安隊日乗 殺戮機械が思い出に浸るとき 79

「シャムちゃん? 何かあったの? 」 

何気ないアイシャの言葉に神妙な顔の小夏はそのまま彼女の正面の椅子まで行くと腰をかけた。

「最近連絡がないんです。それで今日、電話を入れてみたら……隊にも出てないらしくて……」 

思わずカウラと誠は顔を見合わせた。

「ああ、あの娘は有給たくさん残ってるから」 

「違うんです!それだけじゃなくてグリンも一緒にいなくなって」 

小夏の言葉に場が瞬時に凍り付いた。グリン。フルネームはグレゴリウス16世という名前のコンロンオオヒグマの子供である。子供と言っても成長すれば10メートルにもなるコンロンオオヒグマである。優に五メートルはあるあの巨大な熊が行方不明となると問題は質が変わってくる。

「警察には……ってうちに連絡がないってことはランちゃんは手を出さないつもりね……」 

「でもあの巨大な熊が行方不明なんだぞ。クバルカ中佐……何を考えているのか……」 

こう言う問題では最初からなにもしない隊長の嵯峨を無視して副部隊長格のクバルカ・ラン中佐にアイシャとカウラの心は向かう。

「でもあれだけの巨大な熊ですよ……歩いていたら見つかるでしょ……」 

苦笑いを浮かべながら呟く誠の顔をアイシャはまじまじと見た後大きなため息をついた。

「誠ちゃん……自分の胸に手を当てて考えてごらんなさいな。あなたもあの娘も法術師。干渉空間を展開して自由に移動できる訳よ……」 

「あ! 」 

誠も言われてみて初めて思い出した。その視線の先では呆れた顔でカウラが誠を見つめている。その視線に誠はただ申し訳なくて俯いてしまった。

「でもどこに……遼南まで跳ばれてたらまずいわね」

「遼南ですか! 」 

アイシャの一言に小夏が叫びを上げる。シャムの出身地遼南。この東都からは数千キロ西の山奥がシャムの育った森のある山岳地域である。コンロンオオヒグマを初めとする猛獣が暮らす広大な大自然を一匹の熊と小さな女の子を捜して走り回るなどとうてい無理な話だった。

「それは無いな」

確信のある語調でカウラが断言する。そのあまりにはっきりとした口調にアイシャは感心しながらその切れ長の視線を投げた。

「この前入国手続きの件でナンバルゲニアには話をしたんだ。空間転移で跳んで他国に入国することは不法入国になると教えてやったらちゃんと頷いていた」 

「なに? それだけの理由? 」 

呆れるアイシャだがシャムの単純な思考を考えると誠もカウラに同調しなければならなかった。

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