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遼州戦記 保安隊日乗 殺戮機械が思い出に浸るとき 94

「つう訳だから。シャムのことは心配入らないよ……たぶん」 

『いざというときには正直になるんですね』 

モニターの中の精悍なひげ面に笑みが浮かぶ。遼北と西モスレムの国境ライン上。現在は同盟機構軍との名称の東和、胡州、大麗、ゲルパルトの各軍が増派されて両軍の戦力引き離し作戦に従事している最中だった。

そんな中で暇を見つけて前の所属の所属長である嵯峨に連絡を入れるというまめなところがこのアブドゥール・シャー・シン大尉の良さでもあり、その連絡の入った時間が深夜の十時を回っているというところが少し抜けたところでもあった。

「なあに、世の中大丈夫なんて言えることはそう無いものさ。俺だって明日はどうなるか……」 

『身から出た錆だと言ってみせるんですか』 

「まったく昔から口の減らない奴だ。まあそんなところだが……良いのかい? それなりに忙しいんだろ? 」 

嵯峨の言葉に思わず背後を振り向くシン。軽く誰かに手を振るとすぐにモニターに目を向ける。

『まあ私の仕事は前線維持ですから……これからは施設運営や兵站部門の皆さんのお仕事ですよ。これからは撤収準備と今回の事件でキャンセルになった訓練メニューの組み直しが当面の仕事です』 

「いい話だな。俺等みたいな物騒な連中は訓練のことだけ考えてられれば世の中はうまくいっているってことだ。それが一番だ」 

そう言うと嵯峨は慣れた手つきでタバコを取り出し素早く安いライターで火を付ける。隊長室に漂っている煙の中にさらに濃い煙が流れ込んで渦を巻く様を呆然と眺める。

『ああ、それと……ご配慮いただきありがとうございました』 

これまでの自信に満ちた鋭いシンの目つきが穏やかなものに変わるのを横目で見ながら嵯峨はにやりと笑った。

「何が? 」 

『一族の身柄の安全を国王に直訴していただいたそうで……それまではデモ隊が十重二十重に取り巻いて投石だの火炎瓶を投げるだの騒然としていたようなんですが……』 

「ああ、あれか? 」 

明らかにシンがいつかはその話を持ち出すのを分かっていると言うような表情で嵯峨は付けたばかりのタバコの火をもみ消した。

「俺はそう言うのが許せない質でさ……親類に国家の敵が居るとか言って騒ぎ出す奴……お前は何様なんだよって突っ込みを入れたくなるんだよ。まあ俺の場合は一太刀袈裟懸けにして終わりって言う方法が好きなんだけどね」 

『奥様のことですね……』 

シンの顔が安堵から同情へと色を変える。その表情を見るのがあまりにつらいというように嵯峨は隊長の椅子を回して画面に背を向けた。

嵯峨の妻エリーゼはゲルパルト貴族の息女として当時西園寺家の部屋住みの三男坊として陸軍大学の学生をしていた嵯峨の元へと嫁いできた。予科の同窓である赤松忠満や安東貞盛、そして当時は海軍兵学校の学生にして歌人として知られていた斎藤一学と言った悪友達と遊び回る自分がどれほど妻に心配をかけたかは嵯峨は娘の顔を見ると時々思い出されることがあった。

陸軍大学を首席で出た嵯峨だが、本来なら陸軍省の本庁勤めからエリートコースを走るところだったが、彼の義父である西園寺重基の存在が彼の初の配属先を東和共和国大使館付き二等武官と言うドロップアウトしたコースへと導くことになった。


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