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遼州戦記 保安隊日乗 殺戮機械が思い出に浸るとき 103

「今更どこに行くんだーい! 」 

「何を叫んでいるんですか? 」 

オンドラが舳先に立って叫ぶ姿を後ろからネネが窘める。二ヶ月にわたる氷結からようやく開放された北東和の海。その領海すれすれを貨物船が列を連ねるように外海へと向かう。多くは遼北からの脱出者を満載していることは容易に想像が付いた。

遼北、西モスレム両政府は民間のネットのクラッキングが復旧したと同時に国民に平静を求めたが、核による破滅を求める過激な民族主義者達のもたらした恐怖と混沌はとどまることを知らなかった。オンドラもネネも、遼北の非凍結港に遼北脱出を願うそれなりに金を持った人民の群れの噂は耳にしていた。

「そうまでして生きていて価値のある世の中かねえ……」 

「死とは理解できない価値観を受け入れること。それだけの覚悟がある人は数えるほどしかいない……この現象は極めて健康な出来事だと思いますよ」 

淡々とオンドラの愚痴に答えるネネ。背後で二人が乗っている漁船の船長がわざとらしい咳を立てる。昔から彼等東和の漁民達は遼北の人々を見下して生きてきた。それは成金である遼北の人々が生きようとすることへの当てつけ以外の何者でもない。ネネは静かに目線を近くの島へと向けた。

「しかし……島には船は近づかないんですね」 

「あの外道が近づいてみろ……きっと国防軍が皆殺しにしてくれるよ」 

満足げに頷く船長。予想通りの回答にただ頷きながらネネはオンドラを見上げた。オンドラは相変わらずふきゲンだった。船長に支払った報酬は明らかに法外だった。最近は遼北の漁業巡視艇も厳しく東和の漁船の密漁の取り締まりを行っていることは二人とも知っていた。東和北部地域の漁獲量のほぼ三割は遼北の排他的経済海域での密漁に支えられていた。彼等にとって東和に生まれたことは自負であり、それ以外の自信は何もない。ネネもオンドラも船長の根拠の無い遼北の民への見下すような視線と金銭への見るに堪えないへりくだった姿勢はただ不快感だけを残していた。

「六時間……本当にそれだけでいいのかい? 」 

今度は金銭に土下座しかねない嫌らしい笑みが船長に浮かぶ。ネネは答えるのも面倒だというように頷く。

「良いんだよ……そちらの姉ちゃんが問題なんだろ? そいつを置いて行けば何時間だって……」 

「そりゃあそうだ。そのままアタシは北東和の刑務所につながれて身ぐるみ剥がれるんだからな! 」 

オンドラは思わずジャケットの下に手を伸ばしていた。そこには拳銃があることくらいこう言う危ない橋を金目当てに渡ってきた経験の多い船長は苦笑いを浮かべながらそのままキャビンに消える。

「全く反吐が出る……先進国って看板を掲げた土地に生まれただけで果てしなく無能な連中は……人間の資格をすぐにでも剥奪した方がいいんじゃねえか? 」 

「その意見には同感だけど……金は力よ。彼等も落ちるところまで落ちれば自分の価値を認識できる。それまでは誰も彼等に彼等自身の価値を教えることは出来ない……ある意味それは彼等にとって不幸なことなんじゃないかしら? 」 

見た目はどう見ても小学生程度のネネの言葉にオンドラは静かに相づちを打つ。オンドラが意味を理解しているかしていないか。そんなことはどうでも良いというようにネネは視界の中で拡大していく一つの殺風景な島をじっくりと眺めていた。


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