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遼州戦記 保安隊日乗 殺戮機械が思い出に浸るとき 116

吉田俊平は後頭部に刺さったジャックを引き抜くと大きく息を吐いた。

「ずいぶんと……お時間がかかったようですけど……大丈夫かしら? 西園寺家……いえ、山城グループとしてはかなりあなたに期待しているのですからそれに答えていただかないと困りますのよ」 

吉田の後ろには上品そうな物腰で彼を見つめる女性の姿があった。留め袖の牡丹柄の西陣織の着物も、彼女が着れば決して派手には見えず、むしろ力不足に見えた。その特徴的なタレ目もまたその目の奥の人を引きつけるような光を押さえる役目を果たしていると考えれば不自然には見えない。

「まあ……あのお嬢さんに手柄を取らせるのは苦労するってところでしょうかね」 

苦笑いを浮かべながら振り返った吉田を見る女性の目が一気に殺気を帯びる。

「……要ちゃんはそんなに無能だとおっしゃりたいのかしら? 」 

「い! いえ! そう言うわけでは無いんですが……ワルを気取って租界に顔を利かすには役不足なのは確かかと……」 

吉田のいい訳に着物の女性は表情を満足した様子に急変させた。そのコロコロと変わる表情に思わず吉田の額に冷や汗が流れる。

「まあ……吉田さんの人を見る基準は新ちゃんだものねえ……あの子は本当に利発で賢い子だから」 

「46でお子様扱いか……隊長もかわいそうに」 

「私に勝てないうちはいつまで経っても嵯峨惟基なんて言う立派な名前は不釣り合いよ。新ちゃんで十分」 

女性はそれだけ言うと満足げに吉田の座っているモニターの並ぶ部屋を後にした。部屋の自動ドアを出ると白い詰め襟の制服を着た兵士が敬礼をして彼女を迎える。

「お方様……吉田殿の首尾は? 」 

「上々と言いたいところだけど……あとは要ちゃん次第ね。それより相馬君達の準備は出来たのかしら? 」 

相変わらずの余裕の表情。それに詰め襟の士官はにんまりと笑って頷く。

「すべては予定通りです……しかし、康子様。あのインパルス砲台。今すぐ破壊してしまった方が手っ取り早いのでは無いのですか? 」 

士官の言葉を聞くと康子は静かに帯に指していた扇子を取り出して軽く自分の顔を扇いだ。

「それが出来るのでしたらとっくの昔にやっておりますわ。あれは簡単に壊せる代物ではない……確かに私は壊してみせる自信がありますが……私が手を出すとうちの人がいろいろ面倒を負うことになるでしょ? 」 

「まあ胡州のファーストレディーが東和の国有物を破壊したとなれば……元々東和は胡州に遺恨がありますから」 

「そう言うわけ。あくまであれの破壊は遼州同盟司法局によってなされなければならない。しかも出来ればその破壊が行われたことすら外に漏れない方が後々の為になる……本当に難しいお話ですわね」 

まるで茶飲み話でもするようににっこりと笑う。士官はその西園寺康子と言う人物の底知れなさに怯えながらただ敬礼をして彼女がハンガーに向けて去るのを待つのが精一杯だった。


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