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遼州戦記 保安隊日乗 番外編2 ナンバルゲニア・シャムラードの日常29

「おう、やっとるな」 
 部屋に入ってきたランはご機嫌だった。続くロナルドや岡部も先ほどのエンジン交換の場面に立ち会えたことに満足してるようで穏やかな表情でそれぞれの席に戻った。
「シャム。アンの訓練メニューはどうだ?」 
「今作っているところ。……そう言えばアン君は?」 
 遅れて入ってきた誠とカウラは途中からの会話に理解できないようでしばらく首をひねったあとそのまま自分の席についた。
「ああ、フェデロの並走を頼んだよ。やっぱりちゃんと走らさないと示しがつかねーからな」 
 ランはこともなげにそう言うとそのまま自分の端末を起動した。
「俊平、どう?」 
 シャムはよく分からないプログラム画面を操作している吉田を見上げた。吉田はまるで聞いていないと言うようにキーボードを叩き続ける。
「かなり難易度は高くしたつもりだよ。武装勢力には3名のゲルパルト旧軍の軍事顧問を参加させた。通信用ヘッドギアの普及率は50パーセント。各ブロックには稼働率96パーセントの対人センサーを配置」 
「かなりシビアになるね」 
「シビアにしろと言ったのはシャムだろ?まあクリアーできたときより失敗したときのほうが学ぶことは多いものだからな。それに……」 
「それに?」 
 何かを言いよどむ吉田をシャムは不思議なものを見るような目で見上げた。
「どれだけ楓のことをアンが信じているか分かるのは面白いだろ?」 
 吉田の口に悪い笑みが浮かぶ。
「そうよね。普段の楓ちゃんからはその実力は分からないものね」 
「え?嵯峨少佐ってそんな実力者だったんですか?」 
 聞き耳を立てていた誠が端末の脇から顔をのぞかせてシャムを見つめてくる。好奇心満々の瞳。シャムはそれを見て満足げにうなづく。
「要ちゃんが大尉でカウラちゃんも大尉。でも楓ちゃんは少佐。階級が違うのには意味があるのよ」 
「その割りにお前さんは中尉だな」 
 思わず吉田が突っ込みを入れた。シャムはむっとして吉田を見上げるが相変わらず彼の目は画面に固定されて動くことがない。
「まあすごく全体を見て行動できるパイロットよ。無理もしないし」 
「今度の実機を使った演習ではお相手したいものだな」 
 カウラがそう言いながら端末にデータを入力している。誠はそれを見て上の空でうなづくと再び自分の作業を再開した。
 キーボードを叩く音が部屋に響き渡る。沈黙。あまりこう言う状況が好きではないシャムだが自分からこの沈黙を破るほどの勇気もない。
 事実見上げる吉田の顔は真剣だった。機械はまるで駄目なシャムはこう言うことはすべて吉田に任せている。そして吉田は常にシャムの期待に答えてきた。
『今回もいいのができるかな』
 微笑んだシャムだがその瞬間に部屋の沈黙が破られた。
「ったく……あの糞中年が!」 
 忌々しげに悪態をつきながらの要の登場。部屋の中の全員の視線が彼女に集中する。
「な……なんだよ」
 少しひるんだ要だが、その視線の中にシャムを見つけるとそのまま彼女のところに向かってきた。
「おい、シャム。叔父貴がお呼びだとよ」 
「隊長が?」 
 シャムは怪訝そうな顔で不機嫌の極地という要を見つめた。
「おう、あのおっさんすっかり練習に出る気でいたみたいでさ。ユニフォーム着て屈伸してやがった。もう来なくて良いよって言ったら泣きそうな顔しやがって……まるでアタシが決めたみたいじゃねえか」 
「あれか?隊長の法術封印効かなくて試合に出れないことをまだ根に持ってんのか?でもよー、良いじゃねーか。練習くらい出してやれよ」 
 シャムに言いたいことを言って気が済んだように自分の席に戻る要にランがなだめるような声をかける。
「あのおっさんはサボりたいだけなんだよ。もし叔父貴が練習しているところを司法局の本局の連中に見つかってみろ。今度こそ廃部だぞ」
 確かに要の言う通りなのでランは仕方なくうなづくとそのまま自分の仕事を再開した。
 シャムや誠などの野球部の面々は試合中は試合の公正を計るため、鉢巻のような法術封印をつけてゲームに参加することになる。その繊維の中に埋め込まれた転移式ベーター派遮断装置のおかげでそれをつけている間は法術の使用はほとんどできない状態になる。
 普通の法術師の場合はそれでよかったが嵯峨にはそれの効果が薄かった。法力のキャパシティもそうだが、彼は先の大戦で戦争犯罪人として死刑判決を受けたあと、実験体として法術の解明のためにアメリカ陸軍のネバダの砂漠で各種の実験に供された経歴があった。
 その際に無理やりそれまで施されていた封印を解かれた副作用で法術のコントロールが不完全だと言うのがシャムがヨハンから受けた嵯峨の法術封印ができない理由だった。
「まあ……いいか。アタシ、行って来るね」 
「行って来い」 
 ランの力ない声に押されて立ち上がったシャムはそのまま詰め所から廊下へと出た。

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