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遼州戦記 保安隊日乗 番外編2 ナンバルゲニア・シャムラードの日常33

「ラビン。やっぱり一塁は辛いか?」 
 明石の言葉にしばらく躊躇した後、ヤコブはおずおずとうなづいた。
「そやけどなあ、あと左利きはうちは神前しかおらへんのや。練習したら取れるようになる。ええか?自分を信じや」 
「はい」 
 ヤコブが少しばかり笑顔を浮かべたのを確認すると今度は要に向き直った。
「神前な。ここにおる全員に投げたい、言いおんねん。試してみてもええか?」 
「は?」 
 しばらく要は明石の言葉の意味が分からないと言うように立ち尽くした。自然とその目は誠に向く。誠は逃げるわけでもないがいつものように自信がなさそうにうなづく。
「いいんじゃねえの?まあそんな急に変わるもんじゃねえと思うけど……」 
 要の言葉。シャムの同意せざるを得なかった。フォームの調整をしたにしては時間が短すぎる。気持ちの切り替えと言うが、誠にそんなことができるわけが無い。
 シャムがアイシャを見上げてみると彼女も同じことを考えているようだった。
「どう言う形式でやりますか?」 
「そやな……とりあえずバッターは島田……島田は?」 
「作業中です」 
 言い切るカウラ。すぐに納得したと言うように明石はカウラを見下ろすとにんまりと笑った。
「じゃあ、ベルガーと……ナンバルゲニア。最後はクラウゼや。それでええな」 
 いかにも得意げに明石がつぶやく。それを確認すると要は大きくうなづいた。
「それじゃあそれぞれ守備位置に……それとアイツ等」 
 要は外野で延々と遠投を続けている菰田達を指差す。
「守らせればいいのね」 
 そう言うとサラは分かったと言うように外野に走る。
「じゃあ最初は普通の守備陣形で……ヤコブ。ちゃんと取ってね」 
 シャムの言葉にヤコブがおずおずとうなづく。そのままシャム達はそれぞれの守備位置についた。
 そこでシャムには意外な出来事が目の前に起きた。シャムはキャッチャーは明石がやると思っていた。だが座ったのは岡部。明石は当然のようにアンパイアの位置に立ってマウンドに上がる誠を見つめている。
『どうなるんだろ?』 
 バットを短く構えてスイングを繰り返しているカウラを見ながら次の状況がどうなるかはらはらしながら眺めていた。
 静かにカウラはバッターボックスに入った。右打席でじっとマウンド上でうつむいている誠をにらみつけていた。シャムは黙ってセカンドの守備位置から二人を見ていた。見た限りでは誠に変化は無い。
 ようやく落ち着いたように誠は長身を折り曲げるとキャッチャーの岡部の顔を覗き込むように見つめていた。何度か首を振り。そして構える。
『あれ?』 
 ここでシャムは少し感覚的にいつもの誠ではない誠をそこに見た。明らかに力が抜けている。ゆっくりとしたモーション。
 いつもよりそれは大きく見えた。
 しなる様な左腕がボールを話した瞬間。カウラの表情は意外なものを見たというように変わった。
「ストライーク!」 
 明石が叫ぶ。シャムから見るとそれはどう見ても打ちごろの高めの直球。だがカウラは手を出せずにいた。岡部から白球を受け取った誠は今度は確実に落ち着いていた。
 シャムにはまだなんで誠の球にカウラが手を出せずにいたか分からなかった。しかし今の誠の少し安心した様子を見ると次もカウラはヒット性の打球は打てないだろうと確信した。
 再び誠が構える。明らかにゆったりと構えていて盗塁が得意なシャムがランナーなら絶対に走りたくなる姿だった。
 投球に移る動きも明らかに以前よりゆっくりとしている。そして誠の左腕が引き絞られた弓のように方の後ろに回ったときから急激な動きの変化を見せる。
 しなった左腕、それに合わせるようにカウラがスイングする。
「ファールボール!」 
 明石の叫び声が響いた。振り遅れたバットに当たった打球がそのままグラウンドから部隊のゲートに向けて転がっていく。
 不思議なことがある。そんな感じでカウラが首をひねっている。シャムにも比較的緩急のあるピッチャーを得意とするカウラが明らかに振り遅れていることに疑問を感じていた。
 だが誠は淡々とボールを手にするとすぐに岡部にサインを要求する。今度は一発でうなづく。
『スライダーかな?』 
 シャムはそう思いながら振りかぶる誠を見つめていた。シャムの勘は外れた。
「ストライーク!バッターアウト!」 
 明石のジャッジ。インコースをえぐるような速球にカウラが手を出せずに立ち尽くしていた。誠は別に誇ることも無く帽子を脱いでカウラに頭を下げる。カウラはそんな誠の方を一瞥すると参ったというように要が立っているハンガー前のベンチへと向かう。
「ナンバルゲニア!」 
 アンパイアーの明石が叫んだ。ベンチの近くでヘルメットを置いたカウラがグラブを持ってセカンドの守備位置に走ってきていた。
 シャムはそれを見るといつもと変わらない誠を不思議そうに眺めながら要のところにあるヘルメットを取りに走った。

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